2021-01-01から1年間の記事一覧

もういいじゃないか 川の言葉を聞こえないふり

悲しみは路線バスに乗り遅れ、止む無く歩いて帰ることにした。抱え込んだプレゼントがかたかたと音を鳴らす。車の明かりが線のような雨を映した。靴の中にじっとりと水が染みた。 不図、これまでにどれだけこの道を通ったろうと考えた。車で、徒歩で、自転車…

皿の上に蠅がひとり。

いつからこんなに眠くなったのか、部屋にいるときはいつも眠い。仕事を終えるとすぐに眠い。本を読み眠い。音楽を聞き眠い。食事を終えるか終えないか、その瞬間ですでに眠い。眠りが眠気を取り去らない。益々瞼が重くなるだけだ。

神様

小さい人の頰べた 小さい人の掌 小さい人の友達 小さい人の一日 小さい人の折紙 小さい人の自転車 小さい人の約束 小さい人の経験 どうか 恙なく

小さい人

小さい人が深く傷ついている。小さい人が微かに歩み寄る。小さい人が叫び遠のいていく。小さい人が怯え立ちすくむ。小さい人が静かに肩を震わす。小さい人が俯き離れていく。 長い時間が経つ。 小さい人はやがて泣くのを止める。小さい人は涙を拭き鼻をかむ…

彼は寝坊して遅刻したのにバスが遅れたと嘘をついた。 彼は職場のコピー用紙を数枚持ち帰った。 彼は道端で拾った小銭を財布にしまった。 彼は自転車で二人乗りをした。 彼は宿題を忘れたのにもらわなかっただけだと言い張った。 彼は友達のポケモンカードを…

彼は罪がなかったので石を投げた。

誰かが読むと思うだけで私の指はかたくなる。 雨の日に書く文字は雨が読むのだろう。

ぬっと立つ向日葵お前も向日葵か

意見とは大きな声のことである。 小さな声は意見ではない。

雨の日に 誰か居るらしいので 背中をさすってみた

昼下がり

カレーのシミがついた Tシャツを洗いながら君の ことを考えているようで じつはほほにできたニキビのことを考えていた

舞台

白い部屋。薄暗い灯り。 男と女が一人ずつ。 男が大きな声で独りごとを言う。 女もそれに合わせて独りごとを返す。 暗くなりまた明るくなる。 何事もなかったような顔で礼をする。 ここで手をたたく。

詩ではない。 詩である必要もない。 景色がある。 景色が移り行く。 言葉はない。 これらは言葉を介さない。 全てがある。 ほんとうにある。

どんなに大切なものでも自分から手を離してしまう。 その別れを望んだと思いたいがために。

エンジェル・マンに

エンジェル・マン 歩いていくね 本と小銭と頭痛をかかえ エンジェル・マン 背中を丸め 翼ははずして折りたたんで エンジェル・マン 見上げているね つい昨日まで暮らした空を エンジェル・マン 悪態ついた 路傍の石につまずきながら エンジェル・マン 忘れて…

門のない門番

門のない門番が道を歩いていた。どこかにいい門がないかと思ったのだ。幸いにもちょうどよい門が見つかった。堂々とした立ち姿も、年季の入ったさびれぐあいも気に入った。門番はその脇に立った。まるで自分がずっとここにいたような気がした。

人間であることをやめてしまったので まだ人間でない小さなものといるのがたのしい

こんなに小さな星で でっぱった部分を嬉しそうに行ったり来たりしていた

ちいさくかなしい ちいさくこわい ちいさくやさしい ちいさくつらい おおきくなると すべてがちいさい

穴を掘る

毎日穴を掘る。 何もではしない。 時々地上に出て土を捨てる。 眩しくてくらくらする。

ない(歌うように 1)

スクリーンのない映画館 屋根のないプラネタリウム カップのない喫茶店 トングのないパン屋さん 先生のいない学校 医者のいない病院 指揮者のいないオーケストラ 道化師のいないサーカス 宛先のない配達夫 駒のないチェス 標的のない狙撃手 門のない門番 国…

全てが生に収斂される

話すことは生に収斂される 聞くことは生に収斂される 記すことは生に収斂される 読むことは生に収斂される 踊ることは生に収斂される 歌うことは生に収斂される 父と母は生に収斂される 息子と娘は生に収斂される 壊れた時計は生に収斂される 脱ぎ散らかした…

ここは休憩所であり避難所である。祈りの場であり安らぎの場である。人間になる前の、人間になるための準備をする場所である。