電話

昔の友人から、毎年一度だけ電話がかかってくる。いつもワンコールで切れる。こちらから掛け直しても出ない。

はじめは間違い電話だと思った。しかし、2年続けて同じ日にかかってきたので、何かおかしい感じがした。3年目にもなると怖くなってきて、共通の友人に連絡をとってみた。消息は知らないとのことだったが、驚いたことがあった。彼女の元にも、やはりその友人から電話が来るというのだ。しかも、こちらと同じ日の、同じ時刻に、ワンコールだけ。分単位で同じということは、どちらかにかけてすぐに切り、直後にもう一方にかけているのだろう。

今年は、待ち構えていた。明け方、5時32分。この季節はまだ外が暗い。

鳴ったその瞬間に電話を取った。もしもし、と声をかける。すぐに切れるかと思ったが、意外にも通話はつながったままだった。

雑音がひどい。何かが擦れるような音がする。それに混じって、かすかに人の声が聞こえる。

モドッテオイデ。

そう言ったように思う。

それがあの友人の声だったか、それとも違う声だったか、考えているうちに電話は切れた。

しばらくして、再び電話がかかってきた。今度は、この間連絡を取った彼女からだ。

来たよ、どうだった? と聞いたが、彼女はすぐに答えない。ややあって、ようちゃん、と私の名前を呼んだ。

――行ってくるね

え? と言う前に、電話が切れた。

それ以来、彼女とは連絡が付かないでいる。