中学生の時だった。リビングのテーブルで宿題をしていた。母は台所で料理をしていた。父はまだ帰っていなかった。

――背わたを手伝ってくれない?

母が声をかけた。私は生返事をした。

料理は普段から手伝っていたし、母が忙しい時は私が作ることもあった。ただ、えびの背わたを取るのは苦手だった。なんだか、してはいけないことをしているような感覚に陥るのだ。

母はそれを知っていただろうか。そういえば話したことはなかったかもしれない。

 

宿題が半分ほど終わったころ、母がこちらに来た。何か言われるのかもしれないと思ったが、そのまま宿題を続けた。母も、私のすぐ横に立ったまま、黙っていた。生臭いにおいがした。

突然、私の顔の横にすっと手が伸びて、何かをノートの上に落とした。黒っぽい糸のようなものだ……

背わた、と思って鳥肌が立った。ばっと振り返ると、そこに母はいなかった。水が流れる音がして、母がトイレから出てきた。

――今ここにいなかった?

私の問いかけに母は首を振った。気が付くと、さっきの黒いものはどこかに消えていた。